最低賃金の職場に有能な上司はいない

Pocket

有能な上司や経営者に恵まれればとくに技能のなかった労働者に成長余地が生じる可能性もあったかもしれない。けれども、そのような可能性を最低賃金法は潜在的に破壊してしまう。

最低賃金が上昇していく社会では、高い能力のある人はそもそも最低賃金労働者を沢山雇うような商売を始めようとしない。せっかく儲かる事業モデルを作っても政府が最低賃金を上昇させるたびに強制的に利益が減らされてしまうからだ。経営者に能力があるなら、最初から高技能人材だけで完結する領域で商売をするほうが合理的である。

高い能力のある人はそもそも最低賃金労働者を雇うような業界の管理職をやらない。そういう会社の管理職をやっても、政府が最低賃金が上昇するたびに強制的に昇給余地が削られるのだから、能力があるならそんなところで働き続けることはバカげている。転職先を探していなくなってしまうだろう。

したがって、最低賃金水準でしか雇ってもらえないレベルの労働者の労働環境には、基本的に有能な経営者とか有能な上司がつかない。普通の会社であれば部下を与えられない水準の人が管理職になり、普通の会社ではなかなか許されない方法で部下を管理するとしても、それは仕方のないことである。これをけしからんといって法律が締め付けるのであれば、さらに最低賃金労働者を雇う経営者やそのような会社の管理職の水準は低下する。

最低賃金法がないならば余剰人材の活かし方を工夫する経営者や管理職に有能な人がいたかもしれない。賃金水準が高かろうと低かろうと、人材の能力に応じて活かしきる経営者や上司がいれば労働者とて成長できたかもしれない。しかし、現実には最低賃金法の上昇圧力が常にかかっているのでそのようなことはそもそも起こりにくくなっている。

法律の影響が拡大するにしたがって、ますます最低賃金労働者の選択できる職場は乱暴な方法でしか部下を扱わないレベルの上司がいる会社しかなくなっていく。この傾向がエスカレートすると、法律を守ろうとする経営者ほど事業形態を変えて低賃金労働者を雇用しない業態に変更してしまうから、最低賃金労働者は法律を守ろうとしない経営者にしか雇ってもらうことができなくなっていく。

結局、最低賃金水準の労働者は上司や会社が成長を支えてくれることはほとんど期待できない状態の中で自力でステップアップしていくしかない。最低賃金水準より多くの報酬を得ている他の労働者も、最低賃金が上昇するにしたがってこの仕組みに取り込まれていくことになる。この厳しい労働環境を作っている理由は政府の作った法律だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です