政治的に規制が次々とつくられ、人々の市場を通じた分業がどんどん制限されていく社会でどのようなことが起こるかを予想したければ、市場が時間とともに発達した流れを逆向きに巻き戻して想像すればよい。
1960年代から1990年代にかけて日本の市場は飛躍的に拡大した。この間、多くの人々がそれまであった家業を捨てて農村から都市部に流入した。規模の大きな産業やその周辺の事業に雇用されることでより稼ぐことができるようになったからだ。
時間がたつとともに市場での分業が制限される社会では、逆回転が起こる。大規模に発達した分業に参加して一人あるいは家族だけで生産するより高い生産性を発揮できるからこそそこに暮らすメリットが生じるのであって、市場の分業が規制されてしまえばそのメリットは損なわれるわけだ。
一部の非常に生産性の高い人を除けば都市部で暮らすことは難しくなっていき、逆に田舎に戻って野菜や鶏を育てながら暮らすほうが合理的と思われる人が増えていく。分業が縮小していくとしても、都市化していく中で手放した不動産を買い戻したりかつてならあったはずの家業をすぐに復活させられるとはならないから、田舎に戻るといってもそんな選択肢が実際にあるわけではなく、ただ貧困状態に陥っていく人も多くなるだろう。
もちろんこれは分かりやすくするために簡単にした言い方になっている。現代では市場の技術革新のおかげでかつてならなかった通信技術や自動化技術があるのだから、1人でもフリーランスとして稼ぐことが可能になった商売もあるかもしれない。とはいえここにも、規制が年々拡大して言っている。
いずれにしろ、人々は必死に工夫して複雑な分業が阻害された中で時間や労働力をお金に変えていかなければ暮らせなくなっていく。市場の技術革新による分業の発達を政府の規制が分業を阻害するからである。前者が上回るならば分業は発達し豊かさは増えていく、後者が上回るならば縮小して貧しさが増えていく。
もちろん、政府による市場への干渉がゼロであるのが最良の状態である。